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小論文と論文

応物では卒業論文を書く時期となっています.締め切りは来週の金曜日です.卒研生はみなさん頑張っているところです.

卒業論文を書くのは大変だと思います.論文を書くのが大半の卒研生にとって初めてだからです.特に,高校までで作文で褒められたとか,読書感想文で賞を取ったとか,入試の小論文は得意だった,という人にとっては苦労が大きいかもしれません.というのも,それらの国語で書いてきた文章と,学術論文はまったく別の作法で成り立つ文章だからです.

学術論文を初めて書く人にとって,増渕は個人的に,「小論文」なるものに対する経験が障害となっているように思います.入試や入社試験で課せられる小論文は字面では小さい論文ですが,論文とは違うものです.このように,テクニックとしての書き方が比較的確立されているため,大学入試のときなどに訓練されている人も多いでしょう.論文と似ている点もあります.たとえば作文ではない,という意味では論文と小論文は似ています.しかし,違いの方が大きいのです.

小論文と論文の最大の違いは議論のベースです.スタートラインと言ってもよいと思います.小論文では(上記のページにもあるように)自分自身の知識や引き出しがベースとなって論を組み上げていきます.試験のように他に資料がない状態で短時間で書くには,自分自身の頭の中から引き出すしかないですから,これはこれで良いでしょう.人とは違う特別な経験に基づいて論を進めると良い,とする見方もあるでしょう.一方,論文では自分自身の知識などはむしろ廃さなければなりません.これまでにきちんと確立された事実のみに基づいて論を進めなければなりません.自分だけの限られた特殊な経験や曖昧な聞きかじりで議論をスタートしてはいけないのです.

例を示して説明します.このような小論文の書き出しを考えます.

「地球温暖化による気候変動は私たちの生活に大きな影響を与えている.温暖化の進行を抑えるには二酸化炭素の排出を抑える技術の開発が必要である.そこで私は二酸化炭素を削減するため自動車の軽量化に着目した...」

よくある書き出しだと思います.新聞のコラムやエッセーにもありそうです.しかし上記の書き出しは学術論文としては問題があります.理由は3つあります.一つ目は,客観的な根拠が示されずに述べられている事柄が多すぎることです.二つ目は,著者の見解と他人の見解が区別されていないことです.三つ目は,従来の研究に対する紹介がなく自分の意見の位置が示されていないことです.

客観的な根拠を示すにはどうするか.これには参考文献を上げていきます.上記の例だと,「地球温暖化」が進んでいるという根拠を示す論文やデータの引用が必要です.さらに温暖化が「気候変動」を招いているとする根拠,「私たちの生活に大きな影響を与えている」とする根拠,「温暖化の進行」が「二酸化炭素」によるとする根拠...いちいち必要です.これらは新聞やテレビで喧伝されていますから社会的な共通認識になっているようですが,科学的に確立された事実ではありません.誰のどのような研究に基づいて議論を進めているかを明らかにするために,個々に根拠づけが必要なのです.

次に自分の意見と他者の意見を明確にするにはどうするか.これには上記の参考文献を上げていくこと,それに加えて主語を明確にすることです.上記の例文では例えば,「温暖化の...技術の開発が必要である.」という2番目の文章について,「必要である.」と言っているのは誰なのかを明確にすることです.参考文献を引用すれば誰の主張か示せますが,さらに文の頭に「XXXによれば」として人名をあげればより明確です.

最後に自分の意見の位置を示すにはどうするか.上記の例文の最後の文章が問題です.「そこで私は...着目した.」とあります.自動車の軽量化それ自体に着目している人はたくさんいるわけです.また,他にも二酸化炭素を削減する方策はあるわけです.これらの先行研究をきちんと紹介し,その中からどういう理由で自分の研究の立場を採用するのかを示さなければなりません.もちろん,ここには自分のアイディアに基づく選択がありますが,誰が何をやってきたのか,何がわかってきているのか,それを示さずに,自分の新しい思いつきであるかのように「自動車の軽量化」などと言ってはいけないのです.ポイントを絞って先行研究を紹介し,当該論文の立ち位置を明示することは論文の重要な成立要素です.

書き出しで問題設定をした後,本体の構成も違います.論文では「方法」「結果」「考察」と続きます.方法と結果は事実だけを示し,考察では自分の考えを示します.一方,小論文では,通常は科学的事実として示せる事柄はありませんから,「考察」しかありません.さきほど紹介したこのサイトにある小論文の第二段落を見ると,比較的納得できるような事柄が事実として具体的に書いてるように読めます.しかし事実としての根拠はありません.あくまでも著者の経験や伝聞に基づいて,著者の考えを示しているだけです.これは考察です.

このように小論文は主観的な自分の頭の中を人に伝えるために書くものですが,学術論文は客観的な事実の積み上げを紹介するために書くものです.もし卒論に苦しんでいる人がいたとして,多少なりと参考となれば幸いです.

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