気体の緩和時間

化生の松下先生,高野先生と高分子物理化学という講義を担当しています.その講義で寄せられた質問に適宜答えようと思います.

1/8の2回めの講義によせられた質問「気体の緩和時間はどのくらいなのか?」

そもそも気体が緩和するとはどういうことでしょう.気体がつまった風船を変形させたとします.すると中の気体の状態は平衡からズレて,速度などの分布関数が平衡状態のものとは変わってしまいます.しばらくして気体分子間での衝突が十分起きると,気体の速度その他の分布関数は平衡状態でのものに戻ります.これがここで考える気体の緩和です.

さて,気体の緩和時間とは,気体分子の分布関数が平衡に戻るまで,統計的に十分な回数だけ衝突するのに必要な時間となります.気体の緩和時間がどのくらいの値となるか,ですが,気体分子の速度と平均自由行程(1回の衝突から次の衝突までに気体分子が飛翔する距離)がわかればオーダーが見積もれます.平衡状態からのズレが大きくないとして,まず平衡状態での平均自由行程をみるとこのくらいです.一方,気体分子の速度ですが,温度と気体分子の重さに依存しますよね.こちらも平衡状態での平均値を借りてくるとすれば,常温での窒素の場合でおおよそ500m/secくらいです.大気の平均自由行程を50nmとした場合,各分子は0.1ナノ秒くらいのインターバルで衝突します.仮に100回衝突しても10ナノ秒です.とても短いですね.

上記の計算は緩和時間のオーダーを見積もるためのものなのでかなりいい加減です.詳細に検討するには,衝突によって分子の回転や分子内の振動のモード分布が平衡化される過程を議論しないといけません.より詳しい議論のためには,この論文などを読んでください.

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