修論審査会

auditorium benches chairs class

マテリアル理工学専攻の修論審査会がありました.

修士の学位を得るには大学院での単位取得と修士論文の審査への合格が必要です.必要な単位数は学部に比べて少ないので,単位取得に苦労することはあまりありません(インターンに長期に出たり留学すれば単位が取れなくなりますが).一方,修士論文は大変です.修士論文は修士2年間の研究をまとめたものです.分野によっても違うのですが平均100ページくらいです.

修士論文は単に書くだけでも大変なボリュームですが,あたりまえですが書く内容がないと書けません.では何を書くのかというと,何を研究したか(そのテーマの重要性と新規性に関する調査),どうやって研究をすすめたか(方法の詳細な記述),どんなことが得られたか(データと解釈),得られた結果に関する議論(他の研究者による別の方法で得られた結果との比較や派生して議論できる事柄など),研究の総括,を書きます.

卒論でも修論でも,論文は著者の研究者としての能力を物語るものになります.研究者としての能力を身につけたかどうか,を審査されるのが学位審査なので,単位よりは論文が重視されるのです.

研究者としての能力とは何か?増渕が考えるには,まず新しくて意味があるテーマを見つけられるか,次に研究をすすめることができるか,最後に限られた時間で研究をまとめて文章化することができるか,この3つではないかと思います.理工系は修士まで行かないと...と言われることがありますが,その理由はこの研究者能力セットを身につける機会として修士の2年間が重要だからだと思います.

論文には,これらの能力が如実に出ます.

まずテーマ設定においては調査能力が問われます.これは緒言の部分に現れます.論文では,まずその研究の背景(必要性やこれまでの分野の歴史)を調査してまとめます.過去の論文や文献を読み込んで,その分野の問題点をあぶり出し,そこで自分の研究の位置づけを明らかにして,新しく価値があるテーマであることを具体的,客観的に示す必要があります.分野によっては,この調査だけで論文になる場合もあるくらいですから,これだけでも大変です.

次に研究の遂行能力ですが,これはまさに論文の重要な部分である,方法や結果が書いてある箇所に現れます.実験が単に網羅的でなく,妥当な筋道にそって進められているか,調べられるべき事柄が満たされているか,ロジックが妥当であるか,など.卒論でもそうですが,(答えがわかっていてマニュアルがある学生実験と違って)研究では新しいことに取り組むので,なかなかうまく行かないこともあるし,場合によっては数ヶ月取り組んだ挙句に全く違う方向に転換しなければならないことも,よくあります.課題を自分で設定して1個ずつクリアすることを繰り返していきます.短期間でやれるものではないので,コツコツと続ける必要があります.大変ですが,ここは理系の大学院に進む学生さんであれば,嫌いではない作業のはず.研究や技術開発というのはそういうモノですし.

そして最後に,研究をまとめる能力,実はこれが結構ハードルが高いものです.研究は最先端の内容であり,どこまでやれば終わり,という明確なゴールがあるわけではありません.しかし時間は限られています.修士なら2年です.その期間で一つのストーリーにしなければなりません.多くの場合,大きなテーマの一部しか研究できません.そんな場合であっても,論文として一つのパッケージにして,問題設定→解決手段の提示→解答の提示,までが矛盾なく繋がるようにしないといけません.論文を読めば,これが満たされているかどうかはすぐに解ります.

ちなみに修士の在学中に学会発表などが推奨されるのは,修士論文の本体をまとめる前に,「研究をまとめる」ステップを経験していただく方がよいからです.定められた期日までに,研究のある部分でまとまったパッケージを作れるようにする,この訓練は,研究者や技術者にはとても大切だと思います.企業では2−3ヶ月で一つの案件をまとめなければならないと聞きますし.

このように,修士論文を読むときは,通常の学会誌に投稿された論文と同じように学術的な内容について読むだけでなく,書いた方の研究者としての能力にも考えをはせながら読みます.

さて,修士論文の審査の方法は大学,専攻によって少しづつ違いがありますが,今までの自分の経験だと以下のようなものです.審査員3名(主査1名,副査2名)が主に論文を読んで細部まで検討し,当該学生に対する諮問を行って詳細な審査をします.次にその他の教員を含めた専攻の教員全員で口頭試問審査を行います.

当然ながら審査は相当厳しいものです.(マテリアル理工学専攻は,今まで増渕が所属してきた5つの大学院の中で,一番厳格な審査だと思います.)しかし,修論を書く段階までくれば学生さんというよりは研究者ですから,口頭審査も学会発表に近い雰囲気になったりもします.増渕の場合は他の研究室と分野が違ったりしますから,審査というより教えていただくことの方が多いわけです.一方,残念ながらこの段階で研究者になりきれていない人(学部のレポートとか学生実験の口頭諮問みたいな感覚が抜けてない人)だと厳しめな雰囲気になったりします.

論文審査の結果が基準に達しなければ不合格となって,最低1年はやり直しになります.今年は修論の最終提出がマダですから,審査の結果もまだわかりません.いずれにせよ,修論を書きさえすれば通る,みたいに甘いものでないことは確かです.なお,合格した論文は永久保存されます.PDFを公開しているところもあります(増渕研では卒論から公開する予定です).また就職してから就職先に提出を求められることもあります.

なんにしても,最終提出においては,悔いのないモノにしていただきたいと思います.

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