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総説を書いた

増渕雄一,”自動車用炭素繊維複合材料の成形法”,成形加工 27(11), 442-444 (2015) という総説が出版となりました.(成形加工というのはプラスチック成形加工学会の学会誌です.)

総説を書くというのは厄介な仕事です.総説,しかも日本語の総説,というのは,ニーズはあると思います.初学者にとっては分野全体を俯瞰してくれるのはありがたいし,しかも日本語だと読むときのハードルも低いですね.しかし,執筆する側にとっては,少なくとも積極的にやりたくはない仕事の一つです.

総説をあまり書きたくない,これには理由が2つあります.

理由の一つは,総説は論文に比べて業績として格下とみなされるからです.論文はここに書いたように査読というプロセスを経ますので,一応他の研究者の審査を経たことになっています.一方,総説というのは通常は査読がないか,あっても非常に軽微なものです(今回の総説もどなたかが読んで下さってコメントを入れてくださいましたが,論文に対するようなものではありませんでした).つまり,何を書いてもあらかた許されてしまうわけで,いうなればネット上の文章と変わらない(このブログの程度の)信頼性となります.(匿名ではないのでその分著者に責任はありますけれども.)この結果,研究者の履歴書において,総説は論文より格が下がります.書籍も総説と似たようなものです.紀要は自分の研究を書くものですが,審査が論文よりゆるいという意味では総説や著書と同等です.

理由の二つめは,報われない割にしんどいからです.総説では,当該分野の歴史を俯瞰し,現状での問題点を浮き彫りにして,将来への課題を示す,ことが求められます.あわせて,その歴史に沿って重要な論文を適切に揚げることが必要です.このためにはたくさんの論文を読んで,内容を理解して適切かつ手短に紹介しないといけません.(これは実は普段書いている論文でも同じで,それぞれの論文のイントロダクションの部分というのは短い総説です.論文で取り扱う課題について,歴史と現状の問題点を示して,論文の立場を示します.これをコンパクトに書くのは難易度が高いので,論文執筆は慣れるまではイントロダクションは最後に書くのがよいと思います.).

総説は上記のような性質があるので,通常はその分野である程度以上の経験を積んだ研究者に依頼があります.(英語で書かれている国際雑誌から総説の執筆依頼があると,自分も国際的に認めてもらったんだなあと思えてちょっとウレシイ.日本語だと読者が日本人限定なのでだいぶ嬉しさが少ない.)通常の論文はかなりテーマを絞り込みますから,ある意味で評価されなくてナンボ.分かる人だけ分かってくれればOK,なのです.しかし総説はその分野をちゃんと俯瞰できているか,その分野の重要な研究をフェアに紹介できるか,著者の目を通して見せることになります.これを同じ分野の他の人が読んで,「ダメだこりゃ」となる場合があるので,気を使います.それに関連研究者の仕事をバランス良く入れるという,多少政治的な配慮も必要.

それで今回の総説ですが.M井化学のK林さんという方からのご依頼です.この方も増渕のこれまでの専門は自動車材料でないことはご承知です.しかし,書き手がいないので,NCCに移ったことだし勉強だと思って書け,という御下命でした.(書き手がいない理由は上述の通り.)引き受けてしまったものの,やはり勉強が足りない分野は厳しい.しかもこういう工業的な内容は論文があまり出版されていないので相当厳しい.結果として引用した論文数も多くありませんし,手近な情報だけをまとめたレベルの低い総説になってしまいました.

こういうのを読まされる側はたまったものではありませんね.やはり仕事はちゃんと選ばないと周りにもご迷惑をおかけしてしまいます.義理で仕事をすることも必要だけれど自分の能力に応じてやるべきだと反省しました.

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