名古屋大学の教職員はこういうソフト(iThenticate)を使うことができます.正確にはソフトというかwebサービスです.
このソフトは剽窃の可能性をチェックするものです.文章のPDFをアップロードすると,ネット上のたくさんの文章等との類似点を探しだしてきて,類似度がどのくらいなのかをパーセントで出してきます(100%だとオリジナリティがゼロであるの意).ある特定の文書の完コピだけでなく,いろいろな文章から切り貼りしたものも引っかかります.どの文章のどの部分と似ているかもチェックできるし,両者を並べて比較できます.日本語は少し弱いように思いますが,いずれにせよすごいねこれ.
アルゴリズム等は不明ながら,どんなもんなのかを調べるために.自分がゼロから書いた論文を突っ込んでみました.それでも15%くらいが類似していると出ました.これは参考文献のリストまで引っ掛けているためだとわかりました(同じ論文を参考文献にあげていると論文同士が類似すると出てしまう).次に,自分が査読した論文で,同じ著者のすでに出版されている別の論文にかなり似ているなあと感じたものをやってみましたら,類似度40%と出ました.そんな感じでいくつかやってみた結果,20%以上だと要注意な感じで,30%を超えているとだいぶ黒っぽい.
文章の丸コピだけでなく,抜き書きや加飾したくらいのものは剽窃扱いになっています.入試の現国のテクニックで,文章を要約せよという問題においては,大事な文言を引っ張ってきて短くする,というのがありますが,それをやると剽窃扱いになります.
著者自身が書いた別の論文と同じ文章があっても良いではないかという人もいるかもしれませんが,そういうのは自己剽窃,self plagiarismと呼ばれて,基本アウトです.なぜかというと,論文を出版するときに,著作権が著者から出版社に移るためです(copyright transferといいます).例えばA出版社から出ているAJという雑誌に出ているXという論文と,B出版社のBJ誌のY論文に似ている点があるとします.そうすると,著者が同じだろうが違おうが,A社とB社の間で著作権上の問題が発生するのです.仮に日本語と英語など言語が違っていたとしても,図なんかが同じだったらやはり問題が発生します.(雑誌に出版された論文を自分の学位論文に収録するのは,自己剽窃に当たらないことになっている場合もあります.これは大学や専攻によって異なるので学位論文を書くときは確認が必要です.)
先日,増渕が編集に関わっているある雑誌に,ある論文が投稿されてきました.その論文をこのソフトで調べたら,類似度30%超えで,同じ著者の別の論文と類似度が高いという判定が出ました.内容を読むと,実際相当似ていますが一応内容は違うことを論じてはいる.が,類似度が高い当該論文を参考文献に入れていない.(これはあやしい.著者自身が類似性を認識したうえで隠蔽する意図があるかもしれない.)念のため査読者をお願いして読んでもらったら,査読者も却下すべきとの判定でした.この旨を著者に送って,掲載拒否の旨を伝えました.そうしたところが,著者から,内容を読んでくれ,そんな細かいことで掲載拒否するな,という反論が来ました.自分はたくさんの雑誌の査読者もしているし,論文の内容には自信があるんだ,そんなつまらんことは掲載拒否の理由にならん,とかなんとか.なんといわれようが,別の雑誌に出ている論文と類似度が高いものを掲載したらコッチがその出版社から訴えられかねませんのでね.そんなリスクを追う義理はないです.そもそも参考文献に入れてこない論文と類似度が高いあたり確信犯的ですし,数式の参照の間違いが多いなどの問題もあり,内容以前です.雑誌の編集も査読も無償のボランティアです.そういう善意の労力に対して,不完全な論文をぶっ込んでくるのはマナー違反.
大学としては卒論,修論,D論,あるいはレポートのたぐいまで,このソフトを活用するようにとのことです.実際,そういう学位や単位に関わることでも剽窃はカンニングと同じですからね.教科書や他人の論文を参考にすることはもちろんOKですが,内容を理解したうえで自分の言葉で書くことが重要ですね.