Lecture NoteRheology

粘弾性とは何か

粘弾性とはどのような性質なのでしょうか.粘弾性は,粘性と弾性の両方を併せ持つ性質,と言われることがありますが,この説明は正確ではありません.(例えば塑性でも粘性と弾性の両方を示します.)

粘弾性は,「分子の熱運動による緩和が応力の緩和として観測される現象」です.図1のように,階段状のひずみを与える実験(「応力緩和実験」と呼びます)を行うと系は平衡状態から外れた非平衡状態となり,分子の熱運動によって時間とともに平衡状態に戻っていきます.この様子が応力の時間変化として観測できると,時間とともに応力が減衰します.これが粘弾性です.変形開始直後の挙動は弾性ですが,時間を経るに従って徐々に粘性を示すように見えるので,粘弾性と呼ばれます.


図1 変形後の緩和現象

上記の緩和現象はどのように記述されるでしょうか.以下のような仮定のもとでは指数関数で表すことができます.仮定1:加える変形の大きさ(ひずみ)と,励起される分子の数は比例する. 仮定2:励起している成分の数と応力は比例する. 仮定3:各分子は独立に緩和する. 励起した分子の数を$[A*]$,平衡状態(励起される前の状態)にある分子の数を$[A]$とします.仮定3に基づけば,A*からAへの遷移は一次の反応速度式で書くことができます.つまり$[A*]\rightarrow[A]$ です.反応速度定数を$k$とすれば,$d[A*]/dt = -k[A*]$となりますので,$[A*]=[A*]_0 \exp(-kt)$となります.$[A*]_0$は$t=0$のときの$[A*]$です.ここで仮定2をつかって,$[A*]_0=\gamma[A*]_{00}$と書くことにします.$\gamma$は与えた歪みの大きさです.また,$k$は時間の逆数ですから,$\tau=1/k$とすれば,$[A*]=\gamma[A*]_{00} \exp(-t/\tau)$となります.最後に仮定1を使って,$\sigma\propto[A*]$とし,また$\sigma=G\gamma$とすると,$\sigma(t)/\gamma=G\exp(-kt)$となります.$\sigma(t)/\gamma=G(t)$と定義しますと(これを緩和弾性率といいますが)$G(t)=G\exp(-kt)$が得られます. 

緩和の様子を模式的に図2に示しました.緩和が単一指数関数で書かれることはあまり多くありません.AからA*に至る緩和のルートが単一ではないことが多いためです.それぞれの緩和ルートが独立であると仮定すると,緩和挙動は指数関数の線形和として$G(t)=\sum_i G_i \exp(-t/\tau_i)$のように書くことができます.

粘弾性は「緩和弾性率」で評価し,「緩和スペクトル」で定量化します.$G(t)=\sum_i G_i \exp(-t/\tau_i)$のパラメーターGitiは「緩和強度」,「緩和時間」と呼ばれます.ひとまとめにして「緩和スペクトル」と呼ばれます.(正確には,緩和時間の分布を連続化したときの強度分布が緩和スペクトルです.)


図2 応力緩和実験と緩和弾性率

 

緩和スペクトルには分子や構造の熱運動を知る手がかりになる情報がたくさん含まれています.例えばtiのうちで最も大きなもの(tiは慣例で長いものから順に番号をつけるのでt1)は「最長緩和時間」と呼ばれ,系に含まれる最も遅い運動を特徴付ける時間です.均一系であれば,分子の重心が分子の広がりと同程度の距離を熱運動で移動するのに必要な時間に相当します.

しかし,緩和スペクトル$\{G_i,\tau_i\}$そのものを決めることには意味はありません.図2の緩和関数を指数関数でフィッティングする問題はill-posedです.つまり,唯一解を持たない問題です.したがって,$G_i$や$\tau_i$そのものではなく,緩和の概形を定量化するために,統計量を評価します.表1に示すように,分子量分布との対応で考えると分かりやすいでしょう.これらの量は,別に述べる動的粘弾性試験を行うと,作図で容易に評価することができます.

表1 緩和時間分布と分子量分布:統計量の対応

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