金曜日の2限に応化の松下先生・高野先生と分担で行っていた高分子物理化学の定期試験を行いました.増渕担当箇所について採点が終わったので講評したいと思います.
増渕からは2問出しましたが,3回あった講義のうち,2回めと3回めのノートの内容そのままを訊くものでした.すなわち1問目は応力緩和と動的粘弾性の2つの実験について説明するもの,2問目はゴム弾性の分子論に関するものでした.いずれも細かいことは尋ねておらず,概要が理解できているかを問う問題です.どちらも100文字くらいで解答可能な設問でした.
採点してみて,ゴム弾性の方はかなりできていました.講義で「ゴム弾性は試験問題作りやすい」と言っておいたことなどが効いたのでしょう.またこのブログでも1回取り上げていることも要因かもしれません.式を示す必要はない,と断っておいたのですが,式のかなり細かい部分まで記憶している人が少なからずいて,ちょっと驚きました.要点として,1)ゴムの張力は自由エネルギーの変化でかけること,および,2)ボルツマンの式をつかうとミクロなモデルからマクロなエントロピーが出せること,この2点が理解できていれば正解としました.最後の結果として得られる弾性率の式は,高分子を専門にするなら知っておく必要があるけれど,別に覚えておく必要はありません.
一方で応力緩和と動的粘弾性については出来が悪かったですね.ヤマが外れたんでしょうね.「応力緩和」「動的粘弾性」という,言葉からうける印象だけで適当に書いた答案が目立ちました.2回めの板書をノートしてあれば,そこにばっちり答えが出ていますし,教科書もよく読めば判るように書いてあります.(実際教科書を勉強したと思われる答案もそれなりにありました.)
応物の受講生は,当然というべきでしょうが,ボツルマンの式や自由エネルギーに関して理解できている解答が多く,ゴム弾性の方はある意味サービス問題だったかもしれません.応化もわりにできていましたが,自由エネルギーに関する理解が不十分なものが目立ちました.生物はちょっと厳しい出来でした.
ゴム弾性の方でいくつか気になる答案がありました.
まず,応化の人たちの中には自由エネルギー=ギブスエネルギー(G=HーTS)だと思い込んでいる人がいるようです.講義で言いましたが,ギブスエネルギーは温度と圧力が一定の場合に使います.常圧下で実験するときなどはこの条件だし,体積が大きく変化する相転移でも使うので,ギブスエネルギーは確かに重要です.しかし.ゴムの場合は張力がかかっていますからギブスでは議論が難しいのです.かわりに温度と体積が一定であるヘルムホルツエネルギー(F=E-TS)を使います.エンタルピーHの理解があやしいのかもしれませんね.H=E+pVです.つまり内部エネルギーEに,その物体が膨張収縮することによる仕事を足したものです.まあこんなこと書いても分かる人にしか分からんか.
それから(こっちの方が深刻ですが)エントロピーとエンタルピーを間違って覚えている(理解できていない)人があるようです.ボルツマンの式はエントロピーの式です.エンタルピーではありません.エンタルピーはエネルギーと同じ次元(単位がジュール:J)ですが,エントロピーは単位がJ/K(ジュール/ケルビン)です.せめてそこんところは理解しましょう.ボルツマンの式は S=k ln Ω ですが,ボルツマン定数の単位がなんなのかわかっていれば,エントロピーとは混同しないはずなんだけど.(なお,ln や expをとったら,単位はなくなります.ちなみにln や expの中も基本的には単位がない無次元にします.)
熱力学は抽象度が高くて,高校までのボイル=シャルルの法則あたりからのギャップが大きいんです.それに全微分や偏微分を知らないうちに習うこともあるので,難しく感じられると思います.けれど,こうやって後々出てきますので,大学院の試験にも出るでしょうし,復習しておかれることを勧めます.問題集とか教科書もたくさんあるので,自分にあったものを選べばかなり理解が進むと思います.たとえば問題を解きながら学んでいく,みたいな人にはこの本あたりどうでしょうか.