ダイヤモンドの弾性率はどうやって測るのか

化生の松下先生,高野先生と高分子物理化学という講義を担当しています.その講義で寄せられた質問に適宜答えようと思います.

初回12月25日の講義ではレオロジーの基礎についてお話しました.その中で「人間が触って判る」弾性率の範囲について触れました.弾性率が最も高いのはダイヤモンドであることはよく知られています.が,金属やコンクリートとの硬さの違いは人間が触ってもわかりません.その理由は,指で触った時,骨よりも硬い物質については,人間の骨が変形するからです.骨よりも柔らかい物質(例えばゴムなど)であれば,ゴムが変形する様子を触感で捉えられます.しかし骨よりも硬い物質は人間が触っても変形させられません.変形するのは骨の方です.逆に,人間の肉よりも柔らかいものも感知できません.そのようなわけで,人間が触って感知できる弾性率は概ね10^10Paから10^5Paの間のもの,つまりプラスチックやゴムですよ,ということをお話したのでした.

そこで出た質問.「ダイヤモンドの弾性率はどうやって調べるのですか?」これはよい質問です.講義では弾性率の定義として,応力をひずみで割ったもの,と教えています.ダイヤモンドを金属で挟んで,両側から押してひずみ(変形)を与える場合を考えます.この場合,ダイヤモンドは金属より硬いので変形せず,金属が変形してしまいますから,そこで得られる弾性率は金属の弾性率になります.

硬いものの弾性率はどうやって測るのか?これには音速を使います.音速は弾性率と密度に関係しています.超音波振動子とレシーバー(要するにスピーカーとマイク)で試料を挟んで,音を出して受信し,発信音と受信音とで遅れを計測すれば音速がわかります.このように音速を測ることができて,密度が別にもとめられていれば,弾性率を決めることができます.(音速と弾性率の関係はWikipediaにも書いてあります.)これを利用した実験系を用いて,ダイヤモンドより硬い物質を発見したとする論文もScienceに出たことがあります.

動物の筋肉の弾性率を,生きている状態で測りたい,というような目的でも音波を用いた計測は便利です.例えば名古屋大学応物での博士学位論文の一つにこういうのがあります(こちらの方が入手しやすいかも).著者の方は鈴鹿高専の教授をなさっています.

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