現在増渕が所属しているのはナショナルコンポジットセンター(NCC)といって,プラスチックを炭素繊維で強化した材料を成形加工する技術の開発を行なっています.そういう場所のポジションをいただいていますので,貢献しなければならないと思って論文になりそうな事柄を探していたわけですが,ようやく1本論文がかけたので,投稿しました.
Y. Masubuchi, M. Terada, A. Yamanaka, T. Yamamoto and T. Ishikawa
, “Distribution function of fiber length in thermoplastic composites”, Composites Science and Technology, submitted.
プラスチック中に分散している繊維の長さの分布がどういう関数で書けるか,という論文です.複合材料中の繊維長および配向の分布は材料物性に強く影響することがわかっています.従って連続繊維で構造を作るような場合は繊維の編み方などが重要です.一方,NCCでは不連続繊維をプロセスで分散したプラスチックを使います.プロセス中に折れたり向きが変わったりしながら最終的に得られたモノが材料になります.今回の論文は,そういう確率的に折れる(というか切断される)繊維長の分布がどういう分布関数になるかを議論しました.
分布関数を議論することは確率過程を議論することになります.いろいろ論文を探してみますと,繊維長の分布を関数でフィッティングするような仕事はあまり多くないんです.というか繊維長を測ること自体が大変なので,あまりデータがない.少ない中で見つかるのは,Weibull分布を使っている論文でした(これとか).Weibull分布というのは最弱リンク理論というものとよく結びつけて考えられる関数です.例えば,ある電化製品があるとします.この製品の寿命の分布が得られたとします(新品からどのくらいの期間で壊れたかの頻度分布が取れたとする).製品の故障を,いくつかの重要なパーツのウチ,どれかが壊れたら,他がセーフでも動かなくなると考える,これが最弱リンク理論です.詳しくはググッたらいいけど,Weibull分布でデータ解析すると,故障がパーツの劣化によるものなのか,初期不良によるものなのかが判定できるようで,工業的に色々役になっている分布関数です.
繊維長分布にWeibull関数を適用すると,確かにデータはよくフィッティングできますが,繊維長分布とWeibull分布を結びつけるのはちょっと無理があると思いました.最弱リンク理論およびWeibull分布は,材料全体の破壊挙動を議論するときにはよく使われるのです.しかし個別の繊維でWeibull分布が成立するならば,繊維が長ければ長いほど,単位長さあたりで折れる確率が上がると考えないといけません.これを正当化する理論はあります.すなわち,繊維上にはキズがあって,そのキズの大きさにも分布があり,長い繊維ほど大きなキズがあるだろう,というものです.これって,繊維の長さ方向にそってキズが伸びることを想定していますね.でもその場合は,繊維は折れるのではなく縦に割れるのでは?
そういうわけで,もう少し自然に表せる関数がないかと思って書いたのが上記の論文です.繊維上の場所による切断確率が均一で,かつそれぞれの切断が独立だとすると,切断過程はポアソン過程になります.この最も単純な過程でいければ一番良いのですが,これだと指数関数減衰する繊維長分布を予測します.つまり長さゼロの繊維が最も多いということです.実際には短い繊維は繊維自体の硬さで切断されにくいため,ある長さ以下の繊維は少なく,分布はピークを持ちます.このように繊維の硬さによる折れにくさを表現するために,別のポアソン過程を導入して連続した切断をブロックすることにしました.この考えに基づくと,切断の特性長と切断をブロックする特性長の2つの特性長で分布が書けるはずです.やってみたら案外悪くないので,論文にしました.
複合材料分野で論文を出すのははじめてなので,論文が通るか通らないかの感覚がわかりません.でも通るといいなあ.