ミクロかマクロか

こういう記事がでました.これをメタマテリアルと言ってしまうのか...材料科学分野では材料そのものを分子レベルでメタマテリアルにする方向を目指したくなると思うのです.え?材料科学では色々な分子を組み合わせるから,このクマのように同じ部材の組み方を変えるのとは違うでしょ?と言われますか.はい,確かにそういう研究は多いですね.けれど高分子科学の場合は同種の分子で異なる構造を作れる(というか異なる構造ができてしまう)のです.例えばスーパーやコンビニの袋につかわれるポリエチレンは分子の並び方によっては超高強度繊維になります. この記事のアプローチと材料科学のアプローチはにているけど,どうも本質的に同じ,というのは何か心理的な抵抗があって,何が抵抗のモトなのか...(記事の方法論は優れていると思いますので方法自体をディスっているわけではありません.単に自分の中での気持ち悪さの問題です.すいません.) 要するに何をもってミクロとマクロの線引きをするか,という問題でしょうか.上記の記事では,単位となっている部材(数ミリ角くらいに見えますね)は,あくまでミクロという立場です.一方,これらの部材を組み合わせて人間の触感に現れるサイズのものがマクロであるとする.ここで,この単位部材ってミクロなんか?と自分の中の何かが突っ込んでいます.自分にとってのミクロは熱運動で自発的に平衡化できる大きさのものです.大きさとしては1マイクロメートル以下.それ以上大きいものは熱運動しないので,統計力学の範疇外.材料力学や流体力学で扱う領域です.そういうのはマクロなんじゃないかと.計算手法の問題かもしれません.自分が扱う熱運動するような物体の方程式系でかけるものはミクロ.それでは書かない系はマクロ.今回の記事は自分の中ではすべてマクロの世界の話. 自分のミクロ/マクロの区分けも恣意的なので,他はどうかと思ってググってみますと,大半は経済学の話になっていました.家計がミクロ.国家予算がマクロだとか.家計は熱運動で平衡化する...ということはないな.

これは試したい

こういう商品の情報がありました.どちらも買わねばならん気がします.こういう商品はあまり売れないとすぐに無くなってしまって,後から手に入れようとしても難しいのです.もちろんずっと売れてくれて定番商品になれば良いのですが. レオロジーを利用したおもちゃの元祖はシリパテだと思います.このwikiのHistoryのところに詳しく書いてありますが,シリパテは第二次世界大戦中にアメリカが行った合成ゴム開発プロジェクトの失敗物だったのです.こんなものなんの役にも立たないと思われたところを,おもちゃとして売り出したら大成功したわけです.宇宙飛行士のおもちゃとしてアポロに載って宇宙にも行きました. 増渕世代のオジサンには懐かしいスライムも大ヒットしたレオロジーおもちゃです.(このスライムのwikiに書いてある,第二次大戦中のアメリカで云々,はシリパテの間違いじゃないかな?)あのルービックキューブと同じくらい売り上げています. 液体ではなく固体モノでも触感を売りにするおもちゃはたくさんあり,例えばこれとか,それなりにヒットしました. 元レオロジー学会会長の上田さんによれば「レオロジーはおさわりの学問」ということです.まず触感から入るのは増渕も同意します.触感とデータの関係が感覚的に判る人は良いレオロジストだと思います.

肉の緩和時間?

Googleアラートで収集した話.Googleはキーワードを登録しておくと,そのワードに該当するニュースが出た時に自動で知らせてくれる機能があります.増渕はこういう本を書いたりしているので,レオロジー関連の面白そうな話を収集するために,粘度とか弾性率とかそれっぽい言葉をいくつか登録しています. すると数日前に,キーワード「緩和時間」でこういう記事が引っかかりました.プロトンNMRで肉の中の水分子の緩和時間を調べると霜降り状態がわかるという産総研の研究です.なんでも水の緩和時間は筋肉では短く脂肪では長いんだそうな.ちと残念なことにNMRなので,緩和時間といっても相当短い,数ナノ秒での運動です. 肉の力学応答を見ているわけではないので,触感を直に見るものではありません.けれども,この記事の良い所は「共鳴させ、共鳴前の状態に戻るまでの時間(緩和時間)を計る」と,緩和時間の定義をちゃんと書いているところ.これはレオロジーでいうところの粘弾性緩和と本質的に同じです.違いは刺激の手段と測定時間域だけで,原理は全く同じです. 化学のバックグラウンドを持つ人にレオロジーを理解してもらうにはNMRとの対比は良いアナロジーになりますので,この肉の話も引き出しに収めておくことにします.

マランゴニ効果の応用:トイレの物理

B4の平山くんから教えてもらった,マランゴニ効果の応用例がすごいという話. ウチの研究室では週1回,土井先生のソフトマター物理の本を輪読しています.山本先生がガイド役で,ウチの部屋の4年生二人と,松下研からのゲスト松島さんが読んでくる,という形です.本の中でマランゴニ効果の話になり,身近な例や応用として何かないだろうか?との議論になりました(増渕は参加していないので,伝聞です). マランゴニ効果というのは界面張力の不均一により流れが駆動される現象です.wikipediaには半導体を作るとき悪さをする,と書いてありますが,少なくとも我々には身近ではありません.どこかのwebに味噌汁でできるモクモクしたパターンがマランゴニ効果に関係ある,と書いてあるらしいのですが,これは熱対流ですよね多分. そうしたら先週,平山くんが,「マランゴニの応用があった!」と言うではありませんか.これがトイレの洗剤スクラビングバブルというもの.このwebページを是非みてください.考えついたヒトは偉大.CMで便器が一気にコーティングされるような描写があって,マランゴニだと気づかない自分はソフトマター物理をわかっていないと自己嫌悪に陥りました. ウチの部屋は学生と教員あわせて4名しかいないので,昼メシも仲良く一緒に食べるのですが,そんな昼メシ時に「汚物が既にくっついている場合はどうなるのか」「どうやって便器表面に保持するのか」等,汚くも楽しい話に花が咲いてしまいました.マジメに考えると,論文1報くらいには十分なりそうな話だなあと山本先生もおっしゃっています. 来年はだれかトイレの物理をやるかもしれません.