以前にこのような記事を投稿しました.その後の状況をご報告します.
このpublonsというサイトに登録をすると,自分の論文査読の履歴を蓄積できるようになります.昔のデータはもう残っていないので,2014年から2015年にかけての2年間分を登録してみました.登録の方法がなかなかおもしろいものです.査読の履歴を蓄積するには,たしかにこのような査読をした,ということの証明をどうするかが問題になります.(論文であれば公開されているので明らかですが,査読は非公開です.)publonsでは,査読した後に雑誌や編集者から送られてくる”Thank you”メール(査読してくれてありがとうというメール)を根拠とします.Thank you メールをpublonsが指定するメールアドレスに転送すると,そのデータを登録してくれます.Thank you メールのフォーマットは雑誌や編集者によってバラバラですから,登録は手作業のように思えます.結構たいへんな作業だと思います.ともかく増渕の場合,2014年以降はThank you メールがそれなりに残っていたので,publonsに登録してもらったというわけです.最近はThank youメールがきたらすぐ転送しています.
さてそのようにして蓄積された結果がどのように表示されるか,です.こちらのサイトが統計をしめしています.左側のバーに,査読した雑誌の数が出ています.増渕だとここ2年で14誌の論文の査読しています.自分では数えていないので何となく7誌くらいかと思っていました.履歴書を書くときに査読してきた雑誌を挙げる場合もあるので,便利かもしれません.右側のメインのフレームには他の量が出ていて,登録した査読の総数,ここ12ヶ月間の査読数,アクセプト率,などが出ています.(メリットとかいう独自の指数がありますがこれはわかりません)更に下の方には査読した雑誌のインパクトファクターと査読数の分布,査読総数の時間経過,月間査読数の推移,査読の平均単語数,査読投稿の曜日分布,があります.
自分の統計データを眺めると結構面白いことがわかります.
まずアクセプト率ですが自分は20%に対して,他の人達のメディアン(中央値)は31.6%となっており,かなり差があることがわかりました.査読には初回だけでなく再査読の分も入ります.増渕は,ある論文の査読を求められた場合,まともな論文であれば一発でリジェクト判定することはまずありません.(論文の体裁をなしていなかったり,既報の論文からの転載が多いものはもちろんリジェクトします)逆に,一発で通す(そのままの状態で雑誌への掲載を薦める)こともほぼありません.1度めの査読ではどうしても疑問点等出てきますので,それらをあげて著者の意見を求めます.こちらが出した疑問などから著者が必要と判断すれば論文が修正されます.修正された論文は再査読となりますが,通常は初回の査読者のところに戻ってきて査読を求められます.2度めの査読で著者からの回答や修正によってこちらの疑問が解決されれば掲載を編集に薦めます.大抵は2度めの査読で済むのですが,著者の対応に納得できなければ再度,意見を送ります.このようなやり方なので,論文あたりの採択率は80−90%あると思いますが,査読回数あたりの採択率でいくと40%くらいかと思っていました.ところが実際には相当低いことがわかりました.
アクセプト率は雑誌のクオリティにも関係します.雑誌のクオリティは端的にはインパクトファクターに現れると言われます.増渕の場合,インパクトファクターが5-6の間の雑誌の査読が多いのです.(これはMacromolecules誌の査読が多いためです.)このようなハイインパクトファクターの雑誌は投稿数も多いため,査読を依頼されるときに編集者から厳しい査読基準を示されます.いわく,新規性,重要性,方法/データ/議論の適切さ,において,充分な水準に達しているものだけを掲載したいから,そのつもりで厳しく読んでくれ,というわけです.
一番下から2番めにある,査読に付するコメントの長さについては,増渕は457語で,平均より短いようです.これには言い訳があって,増渕が査読したときの長めのコメントがデータに反映されない仕組みになっているのです.上に書いたように査読の証拠として戻されるThank you メールに,コメントが入っていればそれを蓄積し,そこからコメントの長さを収集するのがpublonsの仕組みです.この方法の問題点は,まず第一に,Thank you メールにコメントが含まれていない場合が多いことです.(例えばMacromoleculesは入っていない)第二に,コメントを別のファイルでつけた場合は反映されないことです.査読結果はwebサイトのコメント欄に入力しますが,長くなる場合は別のPDFなどを作ってそれをつけるのです.このように添付したファイルはThank youメールにもつかないので無視されます.まあしかし他の人達も同じようにしているはずなので,増渕のコメントは短めなのかもしれません.長ければいいというものでもないんですけど.
一番下にあるグラフが一番おもしろいものです.これは何曜日に査読結果を提出したかが判るのですが,増渕はなぜか火曜日にたくさん出しています.自分では全く気づいていませんでした.いわれてみれば,まず週末にざっと読んで,関連論文や資料を月曜日に収集検討し,火曜日に意見をまとめて出す,ような流れかもしれません.金曜に出す分は,週末に読む余裕がないときに頑張っているような気がします.水,木に査読が少ないのは,週の半ばのために他の仕事で忙殺されて時間がなく,モチベーションも上がらないためだと思います.
査読は大変ですが,査読をすることでどういう論文が通るのかもわかるので,経験を自分の論文執筆作業にフィードバックできます.研究費の審査に似ています.