レオロジーを学ぶ準備:変形と応力

レオロジーでは物質の変形と応力の関係を議論します.

変形は多様で任意性があり,本来は2階のテンソルで表す量です.ここでは液体や等方的な固体を扱うものとして,せん断変形と一軸伸長変形だけを考えます.(この2つの変形を知っておけばレオロジーの論文の9割以上は読めます.)


図1 一軸伸長変形(左)とせん断変形(右)

図1にそれぞれの変形を示します.中央の立方体を変形させたとき,左側のように伸ばすのが一軸伸長,右側のようにずらすのがせん断変形です.変形量を表すひずみの定義も示しています.変形が変わるとひずみの定義がかわることに注意が必要です.また.ひずみに関する材料力学の定義とレオロジーの定義は違います.変形量が小さければどちらも同じですが,大変形する場合はレオロジーの定義でないと正しく評価できません.なお,ひずみには単位はありません.

変形を与えるには物質に外力を与える必要があります.応力は,この変形に必要な外力と,評価にかかる面から定義される2階のテンソルです.図2には伸長応力とせん断応力を示します.応力は力を面積で割っているので,その単位はN/m$^2$となり.これをPa(パスカル)といって圧力と同じになります.


図2 一軸伸長応力(左)とせん断応力(右)

上記2で定義された変形量(ひずみ)と応力の関係から,弾性率と粘度が定義されます.

まず弾性率ですが,応力をひずみで割ったものとして定義します.伸長変形の場合であれば$E=\sigma_E/\epsilon$,せん断変形の場合であれば$G=\sigma_{xy}/\gamma$です.いずれもバネのばね定数に相当するものと考えればわかりやすいと思います.単位は応力と同じくPa(パスカル)となります.なお,同じ物質であっても変形様式が違うので値が違います.非圧縮性の物質では(かつ変形が小さければ)$E=3G$となります.なお,$E$はヤング率,$G$はせん断弾性率あるいは剛性率と呼ばれます.弾性率は,応力が変形量に比例する場合に意味をもつ量です.変形量が小さければどのような固体でも応力は変形量に比例します.このように応力が変形量に比例する物質をフック弾性体と呼びます.しかし多くの物質は,大変形になると図3のように破壊したり降伏したりします.このような非線形の挙動を扱う場合は,弾性率はあまり便利ではありません.なお,液体では弾性率は0となります.

次に粘度ですが,応力をひずみ速度で割ったものとして定義します.伸長変形の場合であれば$\eta_E=\sigma_E/\dot{\epsilon}$,せん断変形の場合であれば$\eta=\sigma_{xy}/\dot{\gamma}$です.ここで$\dot{\epsilon}$と$\dot{\gamma}$は,$\epsilon$と$\gamma$の時間微分(変化率)を表します.単位はPas(パスカルセカンド)となります.弾性率と同じく,同じ物質であっても変形様式が違えば値が違います.非圧縮性の物質では(かつ変形速度が小さければ)$\eta_E=3\eta$となります.変形速度が小さければどのような液体でも応力は変形量に比例します.このように応力が変形速度に比例する物質をニュートン流体と呼びます.しかし大変形速度になると図3のように応力が非線形に振舞います.このような物質は非ニュートン流体と呼ばれます.なお,固体は流動しないため,流動速度がゼロとなりますので,粘度は無限大となります


図3 弾性率(左)と粘度(右)

上記の弾性率と粘度の定義は,定常状態でのものであることに注意が必要です.すなわち,弾性率での議論では,ひずみを与えたのちに十分に長時間経過したときの応力が図3の縦軸です.粘度の議論では,ひずみ速度が一定の流動を十分に長時間与えた時に観察される応力が図3の縦軸です.

弾性率や粘度のデータを見るときは,身近な物質の値を知っておくと感覚的な理解ができます.弾性率ですが,人間の骨が$10^{10}$Pa,人間の肉は$10^5$Paと大雑把に覚えておくとよいと思います.また粘度については常温の水が1mPasです.

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